出張でよく行くタイ王国のスワンナプーム国際空港。今回、その飛行場に降り立って目に入った軍用車両に釘付けになった(参考:フェイスブックページ)。HUMVEEでもないがメガクルーザーでもない。コンパクトな車体に無骨なデザイン。後部には兵員と貨物が混載できるような大きな座席と荷台。そして無粋に塗られたつや消しオリーブグリーン・・・。今まで見たことのない軍用車両だった。
この名前も知らない軍用車両に非常に興味を惹かれたが、名前も分からなければメーカーも解らない。回りに兵士もいないので質問する事すらできないので、堂々と隠し撮りを敢行する事にした。昼中堂々の軍人をも恐れぬ行為である(多くの国では大変危険な行為なので、絶対に真似をしないで下さい。軍や警察に拘束されたり投獄されたりします。)。
バンコクの市街に出てからも、仕事の会議中でも、この軍用車両の事が頭から離れない私は、会社内の兵役を終えた人に聞いてみたが、車両の手がかりを見つける事はできない。しかし、解決は意外なところにあるものだ。いつも利用するホテルのロビー係が、海軍兵役修了者で車のメーカーや軍の内部での形式名を覚えていた。これはなんてラッキーなんだ!
製造メーカーはタイ国内にある「THAIRUNG」
私自身は全く聞いたことのない自動車メーカーなのだが、顧客のニーズに合わせたカスタムを量産車に施す大手の会社のようだ。日系の大手自動車メーカーへのパーツサプライも行い、パーツメーカーとしても技術力がある大手のメーカーのようである。このメーカーが、タイ王国軍向けに設計開発したものが、私が国際空港の駐車場で目にする事になる「MUV4」(Military Utility Vehicle 4) なのである。
ベースにはトヨタ・ハイラックスを使用
MUV4はTHAIRUNG社がすべてをゼロから生産しているのではない。一般に販売されているトヨタ社製のピックアップトラックをミリタリーカスタムした延長線上にMUV4は位置付けされているところが面白い。
MUV4のベース車両は「トヨタ・ハイラックス ヴィゴ4×4」Toyota Hi-Lux Vigo 4×4 (photo : markmotorsthailand)を使用しているのでる。
トヨタ車といえば、中東ゲリラが対空機関砲や重機関銃を搭載したタクティカルを思い浮かべるのだが、それらは民兵が仮設的にとりつけたもので、いわゆる正規軍が使用する「軍用車両」の定義にはマッチしない。しかし、こちらは、タイ王国軍が正規に採用する正真正銘の「軍用車両」なのだ。マニア的な視点から言えば、この差はかなり大きい。
トヨタ車ベースの軍用車両「MUV4」とは?
タイ王国陸軍装備の多くは米軍と同一規格のものを採用している。当然、車両類も古いものだとお馴染みのMBやM38シリーズ、M151シリーズなどが実際に現在でも運用されている。最近ではやはりHUMVEEシリーズを採用してはいるが、HUMVEEに至っては導入コストは非常に高額になってしまうのが難点だった。しかも、メンテナンス性やパーツコストなども限られた軍事予算の中では無視できるもではなく、事実、HUMVEEの運用パッケージを国防予算で採用調達できている東南アジアの自由主義諸国は、タイ王国軍とフィリピン軍くらいではないだろうか。そんなタイ王国軍内の需要と、東南アジア諸国のミリタリーライトヴィーグル・マーケットを狙って登場したのが、THAIRUNGのMUV4という訳だ。
外見がHUMVEEの雰囲気を出させる事で軍用イメージを強調して設計されているので、見た目にはHUMVEEの無骨な雰囲気を感じる事は十分にできる。事実、私はタイの飛行場でHUMVEEと思い込んでヒョコヒョコと車の近くまで寄っていった訳である。本当にぱっと見た感じは米軍の払い下げHUMVEEに見えていた(視力は老眼レベルではあるが・・・)。
※払い下げのHUMVEEについては以下のページに詳しく書きました。
そしてなんといっても、トヨタ車のメンテナンス性と稼働率の高さ、そして総合的な運用コストの低さを売りにして2011年に発売されたが、この思惑通りにタイ陸軍では採用となり、現在も周辺諸国の軍関係者への売り込みは熱心につづいている。
ホームページで公開されている情報を見る限りでは、キャンバス製の屋根をもつコンパーチブルトップのモデルと金属製の屋根をもつ、HUMVEEに似たモデルの2種類が生産され、タイ王国軍に納入されている。輸出モデルにはタイ王国軍とは異なるバージョンが販売されているようだが、細部の差異については記載されていなかった。
エンジンはハイラックス4×4 3,000ccエンジンを採用しており、燃費の良さや故障率の低さは高評価を得ている。
ちなみにこのMUV4は現在では陸軍の機甲部隊と歩兵部隊を中心に配備を進められているが、海軍や空軍にも同様に配備が急がれている。
MUV4を個人で購入したい・・・とお考えの方の為に
ちなみに無理を承知でこの「MUV4」の入手の可能性について確認してみた。まず、単純に軍の払い下げだが、これはすでに正規での軍放出が行われており、時期が合えば購入が可能(外国人が軍の払い下げ入札に参加できるかは不明)との事だった。しかし、タイの軍用車両サイトを見て回っても販売情報を確認できないので、タイ国内ではそれほど人気のある軍用車両ではないのかもしれない。
そしてメーカーである「THAIRUNG」にも確認してもらったが、警察用に販売しているMUV4であれば、仕様を少し変更するだけで販売をしてくれるとの事だ。お値段は500万円から600万円(電話でのやり取りなので、かなりアバウトな数字なので参考程度に!)との事だった。こちらは全面金属製の屋根構造で、ベンツの四駆モデルの劣化バージョンのような感じなので、私は興味をそそられない。肝心の軍への納入モデルの販売については、軍需部門担当者でないと分からないとのことで電話をたらい回しにされた挙句、「お答えできません」との回答しか得られず終いに終わってしまっている。しかし、もう少し攻め方を変えれば、メーカーから新車の軍用車両が買えるかも知れない・・・。そういった変な雰囲気と手応えを感じてしまっている。
軍用車両MUV4の入手は、軍払い下げで購入するのが具体案
タイというところはウワサ話が多い所なので、本当のところは自分の目で見たり確認したりしないと分からない部分が多い。この記事を書いている最中にも、「おまえの言っていたジープが売りに出ている」といった話が飛び込んでくる。この数あるウワサ話の中から、確実性の高い話題を選り分けて行かなければならない。「あそこの中古車で売っている」とか、「知り合いに軍にコネがある」とか、そういった類の話だ。もちろん、ほとんどの話が大げさなものであったり、ただの民間ジープであったり、現地へ赴いてがっかりする事が非常に多い。
では、個人でこのMUV4を入手するのにはどうしたらいいのか?という問いに対しては、ミリタリーショップ(軍払下品店)での払い下げを購入するのが具体的でベターな案ではないかと判断する。私が知っているタイ国内のミリタリーショップ(軍払下品店)に 確認してみたところ、年に何十台のMUV4が払い下げを見るそうだが、それらのMUV4を買った業者はエンジンを取り外してパーツとして販売してしまうら しい。その方が、高く売れるのだという。タイの軍用車両コレクターにとっては、MUV4はそれほど価値のある車両ではないのだろう。
そうとすれば、非常にリーズナブルな値段で購入する可能性も出てくるし、トヨタのエンジンであれば耐久性についても信頼できる。そしてベースが民間車であればパーツの入手も容易なので、案外、街乗りに適した軍用車両と言えるかもしれない。
自動車としての輸出証明、譲渡(買受)証明などが揃っていれば、日本での輸入通関時に自動車通関証明書が交付される。排ガス検査や保安部品の取り付けなど、コストが必要な部分も出てくるが、日本国内でナンバーを取得しての街乗りも、比較的容易に可能だろう。
個人輸入は遠い先の未来としても、とにかくまずはタイ国内で軍用モデルのMUV4を試乗してみたいものだ。